「地鳴り」
夜、海の向こうから地鳴りが響いた。妻と娘は眠っている。飲みかけのハイボール片手にベランダに出る。一旦止んだと思いきや、また重低音が鳴り響く。地の底から込み上げて来て窓ガラスを振動させるような地鳴りだ。
それが東富士演習場における自衛隊の砲撃演習だと知ったのは何度目かの地鳴りを聞いている最中だった。榴弾砲。陸上自衛隊の自走砲だ。ウクライナの戦場でロシアの戦車を迎え撃つ大砲を見たことがある人もいるだろう。それが対岸で何度も放たれている。暗闇を震わせるその重低音がぼくには戦争の足音のように聞こえてならなかった。
政権が移行したばかりの台湾では中国軍が大規模な軍事演習を行っていた。もしも台湾有事が起きてアメリカが手を出したら真っ先にミサイルが飛んで来るのが米軍基地のある嘉手納と横須賀だと言われている。基地のある街で暮らすことのリスクを再認識する。どうして基地はなくならないのだろう。そう呟くと戦争がなくならないからだ、ともうひとりの自分が答える。ならば戦争はどうしてなくならないのだろう。
アインシュタインから「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」...